東京バレエ団振付滞在記 第1期(3月8日〜19日)

Day1 オーディション〜記者会見

大きなスタジオ(日本一大きいのでは?)で、東京バレエ団の全団員と初顔合わせ。オーディションではあるけれど、何かを踊ってもらう為に振付を始める。その空気感、気配、感触がこれからの創作を左右するし、私を知ってもらう一番の近道だから。勿論初日だからこちらにもあちらにも戸惑いはあるけれど、感触としては良い感じ。すでにキャスティングは絞り、明日から本格的に創作を始める。

夕方は記者会見。超豪華なロココ調の部屋で多くの記者を前に、東京バレエ団への思いや新作の構想を話す。日本語で話している以外、ここが日本であることを忘れる。そして話せば話すほど、この作品に対する自らの思いに気付く。そう、私の中には既に全幕がある。課題はそれをいつ、どのように振付し、発表していくか。今はただ、全幕が上演される日が来ることを願い、信じ、創作に励む。

 

Day2 創作開始〜佐和子の授賞式

昼に一回り狭いスタジオで、少人数で創作を始める(大スタジオでは他の団員がバレエクラス)。童たちのシーンなので、童心に帰って身体を使う。最初は恥ずかしげな舞踊家たちと心理的距離を縮め、どんどん笑顔になって行くのが嬉しい。実演が羞恥心と無縁でないように、振付も羞恥心と無縁ではないのだ。自分という一個人のプライドや顕示欲を捨てて、音楽に集中する。目の前の舞踊家に集中する。

夕方は佐和子の芸術選奨贈呈式。感染防止対策で選考委員や推薦人が来場しなかったので、直接お礼をお伝えできなくて残念。それでも、ハレの舞台に緊張気味の、少女のようにソワソワしている伴侶の、晴れやかな姿を目にできて嬉しい限り。さあ、明日はいよいよポワント女性群舞、バレエの醍醐味に挑む。

 

Day3 構成という実験

今日はプロローグ(緑の海)の実験。既に頭の中にある構成ではなく、女性たちに何度も、何度も異なる構成で実践してもらう。動きが多過ぎても、カノンを凝り過ぎても美しくならない。最終的にはシンプルな構成が一番であることを、改めて認識する。そして24人の女性が一斉に同じ動きをするだけでいかに美しいことか。それこそバレエ芸術の真骨頂。明日は今日の実験を元に、もう少し組み立てていく(先に進めていく)。

夕方は1幕の2シーン(童たち/翁のソロ)を創作。こちらは遅々として進まなかった。振付には創作的側面と指導的側面(動き方を教えることと、何ができるかを探ること)があるけれど、今日は指導的側面に時間をかけ過ぎた。反省。明日はもっと創作的に挑まなければ時間が足りなくなってしまう。

余談。とても尊敬し、信頼しているある方に、1幕の使用楽曲リスト(私の選択)を見て頂いたら、「素晴らしい」とのお墨付きを頂けた。これで何の心配もなく振付に没頭できる。物語バレエにおいて使用楽曲は台本と同義だから。

 

Day4 準備という効率化

今日は稽古の前にスタジオで佐和子を使ってマテリアルを創る。群舞の場合は構成に時間がかかるし、全員が覚えるまでにも時間がかかるから、あっという間に時間が過ぎる。おかげで女性群舞は少し進んだので、明日も同様に佐和子と準備をしておくつもり。その他のシーン(童たち/翁のソロ)はその場で舞踊家と生み出したけれど、今日は順調に進んだので良かった。仕上がりもいい感じなので安堵。とはいえ、残りあと6日間。のんびりはしていられない。

個人的に振付は、準備をしておかず(勿論頭の中のイメージはある)舞踊家の目の前で、舞踊家と共に生み出したい。それが舞踊家として振付をもらうことの醍醐味だし、振付家を触発することで創作に加わることこそ、新作の醍醐味だから。けれど創作が時間との戦いである限り、やはり効率も大事。

余談。今回はNoism設立以来初めてとなる外部振付だけれど、自らのプロジェクトではなく、他の舞踊団に振付するのは2003年のヨーテボリバレエ以来18年ぶりのこと。芸術監督としてではなく、振付家として純粋に創作することを楽しんでいる。

 

Day5 第1週終了

あっという間の5日間であった。まるで熱に浮かされたように時間が過ぎ、日々が過ぎていく。その成果としての振付は順調に進んでいるけれど、それはあくまでもラフスケッチ。ひとまず創ることに専念して(質には目をつぶって)いる。そうでなければ今回の目標である1幕の半分を仕上げることはできないから。もっと教えたり、細かく見たり、質にも時間を費やしたいけれど、今は我慢。前に、前に進む。

Noismを立ち上げ17年かけて構築してきた身体性は、当然一朝一夕に理解/体得できるものではない。それでもその片鱗を伝えたいし、私の作品を踊ることが舞踊家にとって学びや気付きの機会となることを願っている。なぜならこのクリエーションは今回で終わりではなく、ここから始まる長い道程のスタートなのだから。(そう信じている)

 

Day6 休み

一日中頭の中で緑の海が渦巻いていた。その渦をどのように視覚化(舞踊家)するかを考え続けていた。

 

Day7 休み&準備

土日は団員と稽古ができないのだけれど、今日は佐和子と稽古場へ出向き、空いているスタジオを使わせてもらってマテリアル作り。勿論佐和子の身体の向こう側に、今回のキャストの面影を見据えながら。

 

Day8 第2週スタート〜本腰を入れて

今日は朝から衣装デザイナーと打ち合わせ。世界観や色味など、頭の中で息づいている登場人物たちについて説明(言語化)しながら、自分の中でさらにその輪郭がはっきりして来た。いよいよ舞台芸術の創作が始まった感。振付、衣装、美術、照明、それらが渾然一体となった表現こそが、総合芸術としての舞台芸術だから。

その後は童たちのシーンのラフスケッチを仕上げ、緑の海をもう少し進め(群舞は時間がかかる・・・)、村人たちのシーンの振付開始。舞踊家たちにテーマを与えて、各自にポーズを考えてもらいながら構成していく。こういったコンテンポラリーな創作プロセスをバレエダンサーたちに経験してもらうことも一つの意義。思いの外アイデアを出してくれるし、そのプロセスを楽しんでいるようで何より。

 

Day9 体調不良でも進む創作

今日は夜中に地震で起きたり、明け方腹痛で起きたり、眠れなかったから体調は良くなかったけれど、創作は順調に進んで何より。まず翁のシーン1のラフを仕上げ、緑の海の前半部分(海の部分)を進めた。明日には前半仕上がるかな。後半部分(竹藪の部分)は8月の第2期創作に持ち越し。村人のシーンもさらに進んだから、明日で村人のシーンのラフを仕上げれば、当初予定していた今回の振り付け目標は大方達成。本当は緑の海の全てを仕上げる予定だったから、完全目標達成ではないけれど・・・事を急いては仕損じる。

稽古後は取材。会見で話したことを改めて語りつつ、Noismとの比較や、今回の主要キャストの舞踊家たちの印象についても語る。今回の創作が彼らにとって、「金森穣作品を踊った」以上の価値あるものとなることを願う。そしてそれが、この国のバレエ界に大きな一石を投じるものとなることを切に願っている。語れば語るほど、作品のイメージがクリアになって行くし、自らが今ここで、東京バレエ団と創作していることの意味や価値を実感してくる。

 

Day10 高い目標/不可欠なダメ出し

今日は1幕のハイライト(かぐや姫と道児)、パドドゥの創作開始。予定にはなかったことだけれど、感触を確かめたくて始めてみた。手応えを感じられて何より。その後は村人のシーンを進め(明日で終わるか?)、緑の海は前半部分が完成。双方ともに大人数のシーンだから時間がかかるし、不安だったけれど、どちらもいい良い感じに仕上がっている。どのシーンを切り取っても見応えのある、良いものにしたい。創作における欲は深くていい、目標は高くていい。そうでなければ創作なんてする必要ない。

夕方、とても尊敬し、信頼しているある方が稽古見に来場。振付した全てのパートをお見せする。核心をついた指摘に感嘆し、至らない自分に対する悔しさと、この時期に意見を頂けることに有り難さを感じる。どれほど評価を得ても、ダメ出しを受け付けられなくなったらお終。明日は一歩下がって、もう少し俯瞰で、この10日間に団員たちと創り上げた作品を見つめる。

 

Day11 質と予算と時間と現実

今日は各シーン全てをチェックして、それぞれに加筆修正をし、若干踏み込んだ質的な部分も稽古する。漸く村人のシーンも仕上がり、なんとか振付目標は達成。まだ半分残っているけれど、方向性は間違っていないし、舞踊家たち個々の課題も分かって来た。8月の第2期は残りの部分を振付しつつ、さらに踏み込んで質的な部分に注力したい。新しい振付を通して、普段は意識していないこと、考えてみなかったことに気付く機会を与えたい。それがゲストとの、外部振付家との作業の意義でもあると思うから。

夕方はテクニカル打ち合わせ。ZOOMを利用してチーム金森のスタッフと東京バレエ団のスタッフに、作品に必要な小道具、大道具、仕掛け等を説明していく。私の希望を全て伝える。ここからはそれがどこまで実現可能なのか、常にある現実、予算との兼ね合い(戦い)が待っている。妄想している時が一番楽しい。実現させることが一番大変。実現した時が一番嬉しい(当たり前)。

 

Day12 第1期全日程終了

今日は朝から各シーン最後のブラッシュアップ。シーン毎に、振付の確認、カウントの確認、ニュアンスの確認、目指す方向性(演出)を確認する。そしてそのあとに、シーン毎に映像に収めて行く。そうすることでこれからの4ヶ月、舞踊家たちが時折自分でチェックできるから。その後は皆にこの2週間の感想、今の自分の率直な想いを伝える。目指している高みまでどれほど遠いか、それでも皆で必ずいけると信じている、と。この作品は世界で唯一無二の、金森穣と東京バレエ団の作品であり、皆の為の作品である、と。

そして荷物をまとめて東京駅へ。今これは新幹線の中で書いている。怒涛の2週間。確かな手応えを感じながら、登るべき山の大きさに不安がないといえば嘘になる。それでも今は、東京バレエ団と登るべき(登りたい)大きな山が、目の前にあることに感謝している。

 

“東京バレエ団振付滞在記 第1期(3月8日〜19日)” への4件のフィードバック

  1. 下村伸 より:

    具体的な創作のプロセスが伝わってきて、とても興味深く読みました。これからも色々楽しみにしております。

  2. 越野泉 より:

    『かぐや姫』とても楽しみです!
    上野に観に行きますが、新潟でもぜひ!
    東京バレエ団の人たちを、新潟に呼んでください♪

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